サブカル回顧録

ゲームやコンピュータ等、一昔前の語り草

ネオジオCD版 KOF95 ユーザー逆なで事象

ネオジオCDは発売当初から色々な意味で物議を醸し出していた。そんななか不運にもほぼ騙される形で買ってしまったユーザーももちろん存在する。今回はそんな中でも最高に購入者を逆なでしたゲーム「KOF95」を紹介してみようと思う。

その前にネオジオCDが出た当時のネオジオROM版の値段について話そうと思う。

ネオジオCDであるが発売当初のSNKはこういうことを言っていた。

「今後ネオジオのゲームはROMカセットとネオジオCDでしか発売しません」

ネオジオCDが発売したのはちょうどKOF94の出る前辺りで、ちょうどこの頃のSNK餓狼伝説SP・サムライスピリッツ・KOF94と格闘ゲームブイブイ言わせていた時期でもあった。そんな中大正義SNKはこういうことを言ってきたわけである。もちろん当時はROMのネオジオも発売していた。ただこのROMのネオジオには欠点もあった。

「とにかくROM版のネオジオはゲームカセットが馬鹿みたいに高い」

ということである。ここでKOF94以降のKOFシリーズの値段(定価)を載せてみることにする。

KOF94:29,800円(税抜)

KOF95:29,800円(税抜)

KOF96:32,000円(税抜)

KOF97:32,000円(税抜)

KOF98:38,000円(税抜)

ちなみに当時の消費税は3%である

さすがにこの値段はなかなかで普通にゲームショップで買うとして2割引で買ったとしてもだいたい25000円。これが買えるのは一部の選ばれたユーザーだけと言ってもいいだろう。また、ネオジオROMカセットは基本

「発売日に買わないと入手困難」

でもあった。なにせ値段も値段で販売はほぼほぼ「予約専売」に近く、発売日だからといってゲームショップに行ってすぐ買えるというものではなかった。予約者のみが購入するリザーブシステムな売り方だったため、仮にお金が溜まったからといって発売日以降にゲームショップで買えるという保証はまったくなかった。ショップ側としても値段が値段なだけに過剰な在庫は抱えたくなかったというのもあるだろう。そもそもこのネオジオROM版は市場もかなり狭くはっきり言ってニッチな市場であったのもある。

ただ逆に購入する側のメリットも非常に大きかった。なにせアーケードで稼働後2ヶ月もしないうちに家庭用に移植されるわけである。まさにスピード移植。当時のアーケードゲームは移植期間が長く大体1年は待たされるわけで、それを考えると異常な速さだ。

同時に中古に回った旧作は思った以上に値段が下がる。例えばKOF94が稼働当時の餓狼伝説SPの値段は中古で9,000円前後。確かに高く感じるだろうが、相手はまだアーケードでは毎日のように現役稼働しているゲーム。そう考えればアーケードと同一のものが9,000円というのは非常に魅力的である。またたまには生産数が多すぎて狂ったように値段が下がるゲームもあった。同時期のサムライスピリッツは980円、龍虎の拳2は1,980円、真サムライスピリッツは発売後値崩れして1ヶ月もしないうちに5,000円以下。こういったメリットもあったわけだ。

そういったROM版独特の事情もある中、新規でCD版を発売。値段も大幅ダウンの7,800円(KOF95)。割引で買えば7,000円以下で買えるわけだ。予約専売という特殊な販売方法ももちろんなく、同時に他機種へ移植はしないということでかなりの格ゲーユーザーが買ったと思う。

このネオジオCDの発売日は94.9.9。価格は49,800円。当時のキラーソフトは間違いなくKOF94であった。同時にスーファミ版がまさにクソの出来でもあった餓狼伝説SPもこれに含まれていただろう。そしてこのネオジオCD。なんとこの価格にして読み込みスピードは等速。すでにこの時点でなにやら不穏な空気はしたのだが、それでもネオジオゲームの専売を売りに販売を強行。

ちなみに同年末には11月にセガサターン(49,800円:実質販売価格39,800円)、12月にPS(39,800円)が発売されている。この時点でいわゆる次世代機と言われたこの2機種よりも値段が高かったわけである。割引を入れてももちろん高かったであろう(当時のゲーム機本体は定価から割引をして販売するのが一般的であり、定価販売が主流になったのはPS本体からになる)。その上ネオジオCDのコントローラは標準でパッドであり、スティック型は別途4,980円の価格がかかる。ネオジオCDをガチでやるのであれば本体の割引を差し引いてもゆうに5万円は超える投資が必要なわけだ。

実は当時そのキラーソフトでもあるKOF94であるが、この時点での中古価格は19,800円前後。この当時のネオジオMVS版の本体価格は中古であれば14,800円。スティックは一つは標準でついてくるため、スティックを追加で購入しても大体2万円前後。そうなるとKOF94を買うという意味では実に投資金額は4万強になり、なんとネオジオCDで揃えるよりも1万円以上安くできた。同時にMVS版の餓狼伝説SPを購入したとしても5万円を切る価格になり、この時点でもネオジオCDで新規で上記の2本+スティックを揃えるよりも値段は安く購入できたわけだ。さらにサムライスピリッツ龍虎の拳2等のソフトになると捨て値となっており、こういう感じで揃えていくと実はネオジオCDよりも初期投資は安くついていたわけだ。

もちろん中古で購入というのは地域格差があり、どうしても東京・大阪などの都市圏でしか購入できなかったという欠点はある。地方に行けばネオジオの中古はほぼ皆無に等しく、ネオジオCDもそういう意味では歓迎されたのであろう。また今後の新作を購入するとなると新作を2本買った時点で確実に予算オーバーは確定で、KOFシリーズを今後引き続き購入するとなると当然のように足が出てくるのは否めない。。。

 

が、そこに落とし穴があったのだ。

 

ここで一つの動画を見てもらいたい。


the king of fighters 95 - neogeo cd versus neogeo cdz

こちら左が初期ネオジオCD、右が倍速モデルのネオジオCDZ。ちなみに倍速モデルが発売されたのは95.12.29(39,800円)KOF95のネオジオCD版の発売日は95.9.29(ROM版は同年9.1)。この時点ではまだCDZは発売されていないため、購入者は皆左側の読み込みスピードでプレイするというこの世の地獄を味わうことになる。なお、ネオジオCD版のKOF95の値段は7,800円

ちなみにこちらはネオジオCDZでのプレイ映像である。


The King of Fighters '95 playthrough (Neo Geo CD)

これを見てもわかるが倍速モデルのネオジオCDZでようやくなんとかプレイできるレベルの読み込みであろう。初期の等速モデルでは実質この1.5~2倍の読み込み時間がかかるので想像以上にヤバいというのがわかると思う。

そしてその約半年後の96.3.28、事件は起こる。

サターン版KOF95発売

すでにこの時点でSNKはユーザーを裏切っているわけである。なにせ発売しないと言いながら2年もしないうちに手に平を返してきたわけだ。これには当然ネオジオCDユーザーは怒り心頭だったであろう。

ただ、まだ発売するまでは特に問題はなかった。なにやら拡張ROMカートリッジ採用で移植度はかなり良いとの情報しか前もって出ていなかったわけでむしろひっそりと発売していた。当時ROM版を持っていた自分はよせばいいのにサターン版を購入したのだが、そこで驚いたのがこちら


The King of Fighters '95 playthrough (SEGA Saturn)

移植度がどうこうではなく、根本的に読み込み速度が異常に早い。読み込み速度というのは今のゲーム機ではほぼない世界であるが、90年代に出たCD-ROMゲーム機にとってはどうしてもついてくる問題であった。なにせ2倍速程度のCD-ROMドライブでは読み込み速度がどうしても遅く、そういった意味でもいかに読み込みを早くするかが課題でもあったのだが、このサターン版KOF95は読み込み問題という最大の難問をいともかんたんにクリアーしてきた。しかも移植度が半端なく高くアーケードと同等の連続技やテクニックが使える。CPUのアルゴリズムもほぼ同じ。あえて言うなら画面比率(解像度)がネオジオと違うので少し縦長だったのだが、そんなものは微々たる問題だろう。

しかもこれが困ったことにROMカートリッジ付属にもかかわらず値段はネオジオCD版と同じ。発売はたったの半年遅れ。あげくに2倍速モデルのネオジオCDZよりも読み込みが早い(←ここ注目)。一番の問題はサターン本体の価格が2万円程度まで落ちていたこと。ネオジオCDZの値段はこの時点で割引入れても4万弱。

 

・・・

 

このサターン版の発売は完全にネオジオCDユーザーを逆なでした。こうなるとこれを見て誰がネオジオCD版を買おうと思うのか。そう絶対数は決して多くないSNK信者中の中でも強力な信者でもあるネオジオCDユーザーは完全にコケにされたのだ。このときにネオジオCDユーザーは感じただろう。

SNKに裏切られた

まさにその一言。ネオジオCDネオジオのゲームしか出来ない。あげくにロード時間クソ長い。サターンはこの時点で2万円弱まで落ち、ゲームは大量にある(96年の時点ではPSよりもサターンのほうが勢いがあった)。しかもゲーム機をそうそう買い換えることの出来ない子どもたちの精神的ダメージは半端なかったと思う。実際当時知り合いがネオジオCDを持っていたが、その成人していた彼でさえブチギレていたのである。その友人はその後サターンを買ってKOFシリーズは以後サターン版を購入していた。

彼のようにある程度自分でお金を稼ぎ、購入できるユーザーはまだいい。いくらか我慢すれば別のゲーム機が買えるからだ。当時のサターンは2万円弱という決して安い値段ではないが、発売当初の44,800円からすればバーゲンセールに近い。大人であれば決して買えない値段ではない。しかし、子どもたちはそうではない。高いネオジオCD(定価49,800円)をきっと親から買ってもらっていたのだろう。それを考えるときっとこの子達は血の涙を流したと思う。あのときサターンを買っておけば…。

覆水盆に返らず

まさにこの一言がすべてである。同時にSNK側にも後々跳ね返ることにはなるのだが…。

一応、その後ネオジオCDではKOFシリーズはとりあえず的な感じで毎年の恒例のように発売される。同時にセガサターン版もネオジオCDに遅れること半年程度で発売され、こちらは拡張RAMに切り替わり読み込み速度は若干遅くなったものの、それでもネオジオCDよりは速く、ゲームとしての完成度もほぼ同等レベルであったことを付け加えておきたい。あげくに98からはDCへと移植されこちらの完成度は更に上がり、もはや読み込みも気にならないレベルになっておりもはやネオジオCDの立場は地に落ちたと言ってもいいだろう。

ちなみにPSでも移植されたわけだがこちらはかなり完成度が低く、とても同等レベルとは言い難いため割愛させていただく。結局KOFシリーズ目当てで買ったユーザーからしてみればまさに悪夢のような日々を送るようになる。

 

 そんな中、当時の自分は結構コアなゲーマーを自負しており、なにせ当時家には

スーファミファミコンPCエンジンDUOネオジオ(MVS)、PS、サターン、X68000、PC-9821Ap2

と当時揃うゲーム機はほぼ全部網羅していた。なのでその都度自分で一番良いものを選択して買っていた。余談であるがネオジオ系は毎回MVSを発売日に普通に買っていた。他にも自分の周りはどうもかなりのパワーゲーマーが多く、かなりの率で周りのネオジオ(MVS)購入率が高かった。

 

90年代のゲーム機戦争の時代はこういった不幸もいくつかあったものです。また他にも別の不幸を思い出したらちょいちょい紹介していこうかと思います。