サブカル回顧録

ゲームやコンピュータ等、一昔前の語り草

PC-9801シリーズ:当時のビジネス・ゲーム状況におけるモデル変化(終章)

今回は96年以降の9821シリーズの流れを簡単に。これ以降は他社同様に3ヶ月おきに出してくる季節モデルが主流になり、モデルチェンジもマイナーチェンジを中心にかなり頻度が上がってくる。とりあえずざっと調べただけでも機種が多すぎるので大分駆け足気味に話していこうと思う。なお、PentiumPRO及びPentiumIIモデルに関しては主流モデルとは言い難いため今回は省いています。

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1月:年明けはMateXタワーモデルからスタート

9821Xt16(Pentium-166Mhz:32MB:1.6GB):¥640,000
9821Xv13/R16(Pentium-133Mhz:16MB:1.6GB):¥308,000
9821Xa16/R(Pentium-166Mhz:16MB:1.2~1.6GB):¥348,000~¥398,000

メモリとCPU以外の基本スペックは同じだが値段の大きな違いはMillenium(4MB)を搭載しているかどうかである。C-バスの数等もあるがこの時代になればそこはさして問題はない。なお、Xv13はその後W型番を発売している。こちらはMillenium(ただし2MB)を搭載しPCIスロットの数に若干余裕がある設計になっている。このXv13のW型番は最後の最後まで98ユーザーがしゃぶり尽くしたモデルでも有名でこの後魔改造される個体にもなっていくことになるがそれは先のお話。なおMateXモデルはグラフィックチップに基本TGUI9680XGiを内蔵していて、この有無でMateXかどうかを判別可能になっている。

2月:早くも次期型登場。速いスパンにユーザーは振り回される

9821Cb10(Pentium-100Mhz:16MB:850MB):¥298,000
9821Cx13(Pentium-133Mhz:16MB:850MB):¥398,000・¥478,000

スペック的には前モデルと同様。CPUが高速化されたぐらいで他のスペックはほぼほぼ同様。Cxモデルに17インチモデルがあるのも同様である。ただ困ったことにCanBeシリーズはモデルチェンジするたびに少しずつ定価が上がってくるという欠点も現れてきた。これを打開するためにValueStarモデルが本格的に始動することになる。

なおCx13には4連装CD-ROMと言う珍しいものがあったりする。またCx13はコンパクトタイプ筐体として最後の9821であり、同時に拡張FM音源も内蔵されており、HDDも850MBと比較的多いためFDDベースゲーム及びMS-DOSインストールタイプゲームを購入状態で快適に遊べる最後のコンパクト9821でもあった。

9821V12(Pentium-120Mhz:16MB:850MB):¥288,000・¥338,000
9821V13(Pentium-133Mhz:16MB:850MB・1.2GB):¥328,000~¥418,000

CanBeには既に内蔵されていたが、V13からは1.2GBモデルにはFAXモデムが内蔵されていて、当時インターネットが普及し始めたこともありこういったユーザーへの対応が始まっている。またV12も2ヶ月後のマイナーチェンジモデルの際にFAXモデムを内蔵したモデルを追加してきており、この96年ぐらいがちょうど一般的にインターネットを意識し始めてきたとも言える。またValueStarはモニターが15インチまたは17インチから選ぶ仕様になっており価格帯から選択できた。

6月:予定通りのモデルチェンジ。他のメーカーと合わせるように98シリーズも矢継ぎ早に主流3モデル一気にモデルチェンジへ

9821Cu10(Pentium-100Mhz:16MB:1.2MB):¥338,000
9821Ct16(Pentium-166Mhz:16MB:1.6MB):¥498,000

4ヶ月もしないうちにCanBeシリーズは更にマイナーチェンジへ。普及機モデルはCPU据え置きでHDD増量、また筐体の意匠変更。高スペックモデルは今までのコンパクトモデルから一新してなんとタワーモデルに変化。しかもチップセットは430FXとある意味後期型モデルの設計を先に採用という感じでいろいろな意味でブットンだ仕様であった。またモニターは17インチオンリーと中々のスペックでお値段もそれ相応。

9821V13(Pentium-133Mhz:16MB:1.2GB):¥308,000
9821V13(Pentium-133Mhz:16MB:1.6GB):¥408,000(タワー)
9821V16(Pentium-166Mhz:16MB:1.6GB):¥368,000
9821V16(Pentium-166Mhz:32MB:3GB):¥600,000(タワー)
9821V20(Pentium-200Mhz:32MB:3GB):¥690,000~¥720,000(タワー)

CanBeシリーズの値上げに伴い主流モデルへと格上げされたValueStarモデル。何を血迷ったかタワーモデルまで展開したがそもそもタワーモデルは拡張性がメインなのにValueStarのタワーモデルは拡張スロットも少なく意味合いが全く違いカジュアルタワーと言った感じに近かった。V16に関しては珍しくTGUI9680XGiを内蔵してはいるが、タワーモデルで基本MateXデスクトップと同様の拡張性では難しかっただろう。一応17インチディスプレイ付属や3GBのHDDと言う魅力はあったが、これを買うなら最初から何でも出来るCt16を選ぶだろう。値段設定がどうにもよくわからないモデルであった。なお、V20は初の200Mhz搭載マシンでもある。ただ、値段があまりにも酷すぎた。

一部モデルには当時普及し始めていたISDNボードを内蔵していたりする。

なお、この時期のValueStarモデルはマイナーチェンジをして何度も同じ筐体のまま微妙な仕様変更を行っている。この時期のモデルは仲村トオルモデルで、これ以降竹中直人モデルへと変貌してマイナーチェンジを数回行うことになる。

9821Xa13/W12(Pentium-133Mhz:16MB:1.2GB):¥288,000
9821Xa16/W(Pentium-166Mhz:16MB:1.2~1.6GB):¥358,000・¥468,000
9821Xc13(Pentium-133Mhz:16MB:1.6GB):¥308,000・¥408,000(タワー)
9821Xv13/W(Pentium-133Mhz:16MB:1.6GB):¥348,000
9821Xv20(Pentium-200Mhz:32MB:3GB):¥580,000(タワーモデル)

MateXは完全に独自路線で値段もそれ相応、同時にモニターは相変わらず付いてこない。またこの頃になるとFAXモデムでなくLANカードユニットを搭載していたりする。企業でのネットワーク重視での使用用途に特化していたと言う感じであった。一般向けでないのは明らかで完全にニッチな仕様に突き進んでいっていたと言える。ただXc13(モニター付)のデスクトップモデルのように中身ValueStarみたいなものもシラッと発売していたのでここは要注意であった(と言ってもMate買う人はほとんど分かっていたのだが)。

なお末尾W型番はマイナーチェンジモデル。430HXを採用した新規モデルに近く、このWモデルは末期に渡り改造しやすいモデルにもなった。

10・11月:98シリーズ終焉は近い。マイナーチェンジのモデルで急場を凌ぐ

9821Cu13(32MB:1.2GB):¥333,000
9821Cu16(32MB:1.6GB):¥393,000
9821Ct20(32MB:1.6GB):¥498,000

このモデルからメモリ32MBが標準になる。

6月に出したモデルのマイナーチェンジ。唯一の違いはタワーモデルにCD-Rドライブを採用しているところ。この時期CD-Rドライブを採用しているメーカーは非常に珍しく、そんな中まさかのCanBeシリーズから搭載してきたことに驚きを感じる。

9821V13(32MB:1.2GB):¥298,000
9821V16(32MB:2GB):¥403,000(タワー)
9821V20(32MB:1.2GB):¥368,000・¥408,000
9821V20(32MB:3GB):¥498,000・¥530,000(タワー)

ValueStarモデルに関しては全く同じモデルで微妙に型式が違うのみ。タワーモデルにはTGUI9680XGiを内蔵。なおこのモデルからイメージキャラクターが竹中直人に変わる。

タワーモデル以外はほぼほぼマイチェンで外見だけではほとんどわからなくなる。困ったのは小売店で、ここからメモリが32MBになったことで旧モデルとの差が出てしまい、店によってはメモリを独自に追加してさらに価格を落として販売していたところもあった。なお高価格モデル(及びタワーモデル)は基本17インチモニター付属になる。

 

 

さて、これが主に96年の流れであった。一部抜けてるかもしれないがだいたいこんな感じだろう。この時期はメーカーが四半期で新モデルを矢継ぎ早に出しており、それに対してNECも対抗してきたのだがどうしても98の型式上同じような名前が増えてしまい、末尾型番で判別という感じになってしまい、詳しい人ですら混乱を要する状況になってきてしまった。

またここまで異常なハイペースで98の新モデルの発売は初めてでそうなってくると中古価格にも影響が出てくる。はっきり言えば急激な値下がりが起こってきたのだ。さすがに昨年から続いてここまでの数を出すと値段が暴落するのも当然で、中古の98シリーズの価格は本当にこの96年が一番ぶっ壊れていたと思う。ソフマップの中古店では連日お客さんがいて相当に盛り上がっていたのは確かだ。また、この時期はちょうどPentium系の9821の中古が増えてきたことからi486系の9821の暴落と同時にQ-VisionのWaveMaster(WaveSMIT)が発売されたこともあり、特に旧X-Mateを中心にかなり動いていた。

というのもこの時期になってくると今まで9821シリーズを使っていたユーザーも98シリーズに見切りをつけてPC互換機へと舵を切り始めていた。そんな中98を一旦売ったりしたユーザーは安くなった9821を買い直したり、また486系を持っていたユーザーはそのまま引き続き使い続けると言った感じで2台体制になっていっていたのだ。多分に中古でこの時期が異常に盛り上がっていたのはそういった事情もあったのだろう。皆うっすらと感じていたのだろう。98はいよいよ終わるのだなと。実際問題96年も後半になってくると今まで売っていた中古ゲームソフトの数も少しずつであるが減っていき、徐々にWindows95対応ゲームが増えていっていた時期でもあったのだ。

そういった事情もあったのか、CanBeはまだしもValueStarモデルは一部ショップの中には本体とモニターを分離して売り出すところも出てきた。主にタワーモデルにはなるのだが、本体だけで売るショップが増えてきたのだ。要は新規では買いにくいセットモデルの中でも高スペックモデルは分離して売買するというわけだ。同時に高スペックモデルはモニターも17インチであったことから当時はまだ15インチが主流であったことも有りモニターの買い替えも安価でできると言った狙いもあったのだろう。こういった独自の売り方をするショップもぼちぼち増えてきた。また同時にここまでハイペースで販売されるということは商品もダブつき始めるのは明らかで、そういった商品を新品アウトレットとして売り出すショップもこの時期が全盛であった。特に96年になると95年に出ていたモデルがかなり安価になり、そういったモデルを買うユーザーもいたということだろう。

ただ、98としての弱点がわかり始めたのもこの時期だった。今まで内蔵HDDを使ってきていなかった9801としての機能を拡張してきたのだが、いかんせん足回りの弱さは明らかで、同スペックでもとにかく起動時間及び動作作業効率が異常に悪かった。9821はとにかく足回りが特に遅く、明らかに起動スピードが遅かったのだ。これはどうスペックのFMV等と比べても明らかで、ここに来て外見はうまく似せても根本的な足回りの脆弱さが際立ってき始めたのだ。この時期辺りから、NECがいよいよ98を見切るんじゃないか?と言う噂が本格的に流れ始めてくる。すでにマイナーチェンジで明らかな手抜きをしている辺りそれは明らかであとは時期とタイミングだけであった。

一応、年明けもCanBeシリーズの後継機種としてMMX Pentiumに対応した9821V166やV200を発売。同時にCanBeシリーズの正統後継としてCEREBシリーズを展開しこちらもMMXPentiumモデルとしてC166、C200と発売。その後もV16、Cu16とマイナーチェンジモデルでつなぎつつ、最終的には10月からシリーズを一新して98NXへと移行する。この時に旧9821シリーズで展開していたシリーズ名を踏襲。MateはMateNXへ、ValueStarはそのままVALUESTAR NXとして継続と同時にCanBeの路線を継承。当時は法人と個人で10種類近く展開を始め、最終的には5種類程度に集約することになった。

 

 

結局98シリーズはMS-DOSで全盛を迎えてMS-DOSと共に終えたと言ってもいいだろう。Windows95が出た時点で負けることは分かっていたのだ。それを過去の資産と言う魔法の言葉でうまく延命してきたが、それもMS-DOSがまだ主流で動いていたからこそ使えた言葉であり、それも96年半ばあたりから加速度的にWindows95への移行が始まり、いよいよもって持たなくなってきた。今までは速度が遅いというデメリットがあったのだが、それもPentiumの普及やメモリ価格の下落により解決され始めてきた。またMS-DOSで出来ないことの一つにインターネットがあるが、このインターネットの普及もそのまま98の資産を潰しにかかってきたと言ってもいいだろう。法人であれば別であるが、法人側もメインであるワープロ表計算ソフトはすでに快適で使えるようになり、同時にこちらは裏街道ではあるがエミュレータ等の普及もこの辺りから広がっていく。結局Windows95も発売して1年近く経てば色々と可能性が広がっていってしまい、過去に拘る98系のソフトは極論を言えば一部法人需要とゲーム以外はもはや意味がなくなってしまったと言ってもいい。

なおこの当時メモリは16MB~32MBが主流であったが、すでにパワーユーザーはメモリの重要性に気がついており、自分は64MB搭載していた。正直64MB搭載すればもはやWindows95の動作は快適以外の何物でもなく普通に使えていた。この96年後半から32MBが各メーカーの主流の容量になってきたが32MBになった時点でかなり動作速度が変わったことに気づくユーザーも多かっただろう。この快適さに気づかれた時点で98シリーズは終わったと言ってもいいのだ

 

 

結局この後97年以降も発売はされるが、98NXの発売と共に9821シリーズの発売は激減する。もちろん一部のユーザーからは反論もあったが企業としては当然の選択であって結局売れないではなく売りにくくなったから98NXと言う名前のAT互換機へとシフトしたのだ。ただNECも決して9821ユーザーを見過ごしていたわけではなく、もはやほとんど利益は出るのか怪しい状態の中、企業向けのモデルとしてMMX Pentium主流のMateX、PentiumIIや初期Celeronに対応したMateR、ノートPCとしてはLavieNrシリーズと発売は行っている。最終的にはCeleron433Mhzまで対応したMateRを出してきたことはむしろすごいと思う。当時としては確かに割高ではあったが、Celeronまで行くとすでにPentiumの世代も初期に比べて3世代はあがっていることになり、チップセット等の設計対応は大変だっただろう。もはやほとんど利益度外視であったことは明白であるが、それでも法人需要がそれだけ多かったということだ。実際9821シリーズの発売が終了した際には市場に残っていた98シリーズはまたたく間に消えてしまったという話で、それだけ法人需要が多かったことを物語っている。

最終的には法人需要が足かせになった感じで結局旧パーツの発売終了等が重なり、98シリーズとしてはもはや設計不可能になってしまったのが理由であろう。むしろ2000年まで発売していたことは良心であろう。

 

 

なお、個人ユースでメインで動いていたゲーム市場であるが、これまた不思議なことに97年前後あたりから加速度的に在庫が減り始めたのだ。同時に最後の98の砦であったエロゲーも97年前後から急激に数が出なくなっていく。というのも少し調べたところ96年から97年にかけてWindows95への移植及び新作発表が急激に伸びている。ちなみに98シリーズで最後まで一般ソフトを出し続けていたファルコム英雄伝説IV(96/5)光栄の提督の決断III(96/?)、エロゲーで言えばエルフの下級生(96/6)この世の果てで恋を唄う少女(96/12)とすでにMS-DOSは96年で終わっていたということだ。アリスソフトに至ってはすでに98シリーズは見切って大ヒットとも言える鬼畜王ランスWindows95及びWindowsNT用として早々と96/12に発売している。どちらも同様のタイミングで衰退していくのだが、多分にこの96年末から97年にかけて市場の潮目が変わったとメーカーやショップ側は感じていたのかもしれない。

なお97年以降に関してはさらにカオスな様相になっていく。突然デッドストックの9821シリーズが週末に売りに出されたり(しかもテント立てた簡易ショップ的な店)、98シリーズのゲームが一気にワゴンセールされたりととにかく凄まじいことになっていった。そして98NXの発表→発売で完全に98市場は終わったと言ってもいいだろう。確かにPentium系の9821シリーズはまだ中古では数はあった。だが価格は徐々にぶっ壊れ始める。最後は例の悪名高きPSE法だったかな?中古商品になにやらえらい制限出してきたやつ。あれでトドメ。市場から一瞬で消え失せた。その間わずか5年程度。びっくりだよね。あれだけ数が出ていた98シリーズが9821含めてホント一瞬で市場から消えるんだよ?まじでありえないって思ったもん。

 

 

以上です。94年前後から97年まで。怒涛の3年の間で結局独自規格が最後まで足を引っ張って進化できなかったのが全てだったと思います。でもそれはどうしようもないことでこうなるのはNECも分かっていたのでしょう。だから98シリーズを出しながら海外ではAT互換機を発売していってノウハウを得ていったと。まあ、自分のようなユーザーはゲームでどうしても考えてしまうのであのときは本当に色々と亡くなっていって悲しかったけど、今はパソコンも進化していき当時は不可能と思われていた98のエミュレータもゲームレベルであればほぼほぼ問題ないレベルになってくれてます。そう考えると一番可哀想だったのはやっぱり98で独自システムを組んでいた法人だったんだろうなと。中小の企業だと今も制御に98シリーズを使っていてイチから作り変えるには予算的にも厳しいとも聞きます。そういったところが今も一番苦労してるんだなと。そう考えれば98をホビー感覚で使っていた自分なんて全然かわいいものだったなと改めて実感しましたね。