サブカル回顧録

ゲームやコンピュータ等、一昔前の語り草

PC-9801シリーズ:当時のビジネス・ゲーム状況におけるモデル変化(前編)

すでに30年近く前になっているが、PC-98シリーズがどのくらいから一強になり、そして衰退していったか。またその当時での売れ筋モデルの傾向はどんな感じだったのか?今更ながら少し振り返ってみようと思います。

なお当時はまだ学生であり(10代半ば前後)、当時はパソコンも一般的でなかったため、その後20代になって聞いた話等も含まれているため少々状況が違っている事もあるかもしれません。あくまで主観的な感じになりますのでご了承ください。

PC-88シリーズ末期の混乱期:9801RA・RS・RX

9801RA2:i386DX(20Mhz):¥498,000(88-07・89-11)

9801RS2:i386SX(16Mhz):¥398,000(89-11)

9801RX2:80286(12Mhz):¥338,000(88-09・89-10)

PC-9801シリーズはかなり長く、初期のアルファベット一文字型番(F・M等)もあるが、この頃はまだ8bit系のパソコンのほうが強く、またホビー要素も強かったことでビジネス方面と仕切り分けが出来ていた。もちろんそんなわけには行かないので、ビジネス要素は押しつつもホビー要素も追加していき、VMやVX等で基本は固めてきていた。そういう流れで走っていたところ、いよいよもってPC-88系が限界を迎え終焉を迎える。ちょうど80年後半がそのタイミングなのだが、いかんせんまだ市場は微妙にPC-88系を含む8bit系パソコンが主流であり、そんな転換点の直前に発売されたのが9801RA・RS・RXシリーズである。

この3モデルは88年9月、89年10月と2回発売されており、実質ロゴの変更とRSシリーズの追加によるRXの値下げ、だが単純にモデルというよりは外観の変更と言ってもいいだろう。このRA・RS・RXの下型番のアルファベットが今後の98シリーズのモデル型式の方向性になっていく。

一番高かったRAに関してはi386DX(20Mhz)を採用し、当時としては高速なマシンであった。またRSはi386SX(16Mhz)RXは80286(12Mhz)を採用し、9801シリーズは以前のVMシリーズで使われていたV30をやめ、このRシリーズからVX系に採用されていたインテル系のチップをメインに切り替える。なお、この当時はV30系も専用のソフトがあったため、CPUを併用で搭載しディップスイッチの切り替えで使い分けも可能であった。

このRシリーズは相当に売れたのだろう。当時の広告には次期モデル(Dシリーズ)が発売されたあとも根強く新品が販売されていた。マイコンベーシックマガジン等にある広告には長きに渡って掲載がされていた。実際値段がまだまだ高かったのだが、当時のパソコンは値引きがかなりあり、RXは34万近くはしたが実質販売価格は20万強程度であり、当時としてはそこまで高い値段でなく頑張れば購入できる値段でもあり、特にRXを筆頭にして売れていた。

ただこの時点ではまだPC-88系が完全には終わっていなかったこともあり、それなりに棲み分けがされており、またこのRシリーズはFM音源が搭載されていなかったため、ゲームを楽しむには別途FM音源カード(PC-9801-26/K:通称26K音源カード)を購入することが必須であった。このカードがだいたい2万弱していたのでその分予算が追加されることになる。

☆当時の状況☆

このRシリーズはまだビジネス色が強く、どちらかといえばゲームよりもむしろビジネスよりと言う感じであった。実際のところゲームをするのであれば26K音源の購入はその他互換音源(当時はスピークボード等あった)が必須であり、まだゲーム色はそこまで強くなく、NEC側も手探りのような感じであった。

PC-88シリーズの終了に伴う戦略変更:9801DA・DS・DX

9801DA2(U2):i386DX(20Mhz):¥448,000(91-01・02)

9801DS2(U2):i386SX(16Mhz):¥358,000(91-01)

9801DX2(U2):80286(12Mhz):¥318,000(90-11)

そして一年後の90年11月、同時に91年1月に98シリーズ最大のベストセラーとも言える9801DA・DS・DXシリーズが発売される。

このシリーズはCPUに関しては据え置きでしかもRシリーズには搭載していたV30を外してしまい(V30エミュレートモードに切り替わっていた)、定価をそれぞれのモデルで2~3万程度落としただけであり、それだけであればどうにもならんかなりふざけたモデルであったが、最大のポイントは26K音源を内蔵してきたことである。

タイミング的にPC-88シリーズが完全に終焉し、PCゲームユーザーが路頭に迷うことになり、またシャープからはX68KMC68000)が87年に発売され88年3月にはこちらもベストセラーとなったX68K ACEを発売、富士通からは89年2月末にFM-TOWNSを発売。特にこのFM-TOWNSはCPUにi386DX(16Mhz)を搭載し更に等速とはいえCD-ROMも搭載。それでいて9801RAよりも10万以上定価も安くこういった強力なライバルも存在していた。どちらもFM音源を搭載しており、ビジネスだけでなくゲーム機能も強力にサポートしており、また1~2年は先に発売していたためゲーム系を中心に既に固定ユーザーも出来つつあった。NEC側も手をこまねいている感じではあるが2年近くPC-88系の市場の状況をみた上で完全に市場は移行したと判断し、ビジネス系とゲーム系を一つにするためにこのDシリーズにFM音源機能を搭載してきたのだろう。事実PC-88系を持っていたユーザーはこのDシリーズに切り替えたユーザーはかなり多く、NECの戦略としては大成功したと言っても良い。

なお余談だがこのモデルから3.5インチFDDモデルが併用される。今まで98シリーズは3.5インチFDDモデルはモデル自体が専用に準備されていたが、このDシリーズからは型式変更で併売になることになる。

☆当時の状況☆

値段が若干下がったこと+FM音源の追加にPC-88系ユーザーの買い替えもあり、相当数売れたモデル。ただビジネスソフトでV30系の命令が濃く反映する一部のソフトではエミュレーションでは若干不具合が出たりすることもあり、またゲームが必要なく純粋にビジネス用途のみで使用するユーザーは旧モデルも併売して売られていたこともあり、むしろ安価になったRシリーズを購入する人もいた。もちろん値段差はそこまでなかったが、やはり古い機種=安いのは必然でありFM音源以外を見てしまえば中身はほぼ同じで高価格モデルのHDD容量に若干の違いがあるぐらい。当時はFDDベースで動かしていたこともあり、そこまで必要としていなかったという時代背景もある。仮にゲームがやりたいのであれば後々追加でFM音源を購入すればいいのでそういった割り切った買い方をするユーザーも多かった。

なお、このDシリーズはその後売れに売れたことで中古でもかなり出回り、90年代半ばになれば98の入門機として当時の大学生のお供にもなっていた。DAは割高であったが、DSになれば中途半端なスペックということもあり実に四桁の値段で購入できたのだ。また90年代半ばはすでに5インチFDDは大分減っており、3.5インチFDDへと移行がほぼ完了しておりこのDシリーズは3.5インチモデルがあるということもあって重宝されていた。正直、発売当初でなくその後の中古での格安パソコンとしてお世話になった人もかなり多いのではないかと思う。

中途半端なスペックで大顰蹙:9801FA・FS・FX

9801FA2(U2):i486SX(16Mhz):¥448,000(92-01・02)

9801FS2(U2):i386SX(20Mhz):¥358,000(92-05)

9801FX2(U2):i386SX(12Mhz):¥318,000(92-05)

このFシリーズは98シリーズの中でもトップクラスでの失敗モデルと言ってもいいだろう。スペックを見た感じ順当に進化し値段は据え置きということで非常にお得なモデルと思うが、ちょうどこの時期は俗に言うコンパック・ショックがあった頃でまだWindowsはまともに動くスペックでは無いものの、98シリーズと同スペックのパソコンが実に4割近く定価が安く、明らかに98シリーズの割高があからさまな状況になっていた。そんな中発売してくるのであるが、ここで何を考えているのかCPUスペックを当時のスペックからはワンランク落とした状態で搭載してくる。

今までのNECの98シリーズといえば最上級モデルには惜しみなく最上級のCPUを搭載しており、その流れで行くのであればFAにはi486DX(25Mhz)を搭載すべきであったし、FSは実際にFAで搭載されたi486SX(16Mhz)かまたは悪くでも前モデルのDAで搭載されていたi386DX(20Mhz)を搭載すべきだっただろう。そしてFXには最低でもi386SX(20Mhz)を選ぶべきであった。

ちなみにライバルでもあるシャープは前年の91年5月にCPU周波数を16Mhzに引き上げたX68000 XVIを発売し、92年2月にはXVIの3.5インチモデルでもあるCompactを発売。値段も¥368,000(XVI)、¥298000(Compact)と周波数アップにも関わらずそこまで値上げはしていない。Compactに至っては相当に引き下げている(が、X68Kはゲーム用途が主流で3.5インチベースのゲームはほぼ発売されないためゲームを遊ぶにはパッケージ購入後にいちいちメーカー対応が必要となる。ただ当時はほぼほぼ黒に近いグレーのバックアップツールが存在していたため、大体は5インチ外付けFDDからバックアップをとって遊んでいた)。

また同様にライバル関係であった富士通は91年11月に遅ればせながらFM TOWNS II HR20を発売。このTOWNSはCPUにi486SX(20Mhz)を搭載し、またメモリも4MB(98FAはあいも変わらず1.6MB)、CD-ROM搭載(等速)、ゲームパッドにマウス同梱、FM音源と言った感じでてんこ盛り状態で¥328,000とバーゲン価格。

もちろん、X68000FM-TOWNSと違って98シリーズには過去の遺産があり、その遺産が使えるということでそこは売りにはなっていたが、さすがにこのマイナーチェンジとしか言えない新機種の発売と価格の据え置きは相当だったらしく、このFシリーズはかなり売上も少なかったようである。なにせ90年代半ばのあの98全盛期の中古機販売店でもこのFシリーズはタマ数も少ないせいかなかなかお目にかかることはなく、あってもFSやFXでFAはなかなかであった。その上結構割高でほぼほぼ選択肢に入らないという状況。一応ファイルスロットが採用されたりとそれなりに新基準が搭載されたものの、普通に使うにはそこまで必要なく、とにかくコスパの悪い98として忌み嫌われたものです。98ユーザーは結構買い替えが激しいので新モデルが出るとそのまま買い換える方も多かったのですが、このFシリーズは買い替え需要も少なく、前モデルでもあるDシリーズやRシリーズを引き続き使う方が多かったようです。

☆当時の状況☆

すでに市場は16bit環境へ完全移行済。ビジネスもゲームもすべて移行したわけだが、結局98シリーズはその両方で強く完全に一人勝ちであった。一応海外からAT互換機の波は来てはいたが、いかんせんソフトが全体的に弱すぎたことや日本語対応がどうしてもソフトウェア処理に頼る関係上速度低下を招くため、当時の386や486程度の貧弱なスペックでは厳しいこともあった(当時の日本産のパソコンは内部に漢字ROMを搭載しており、日本語表示は基本ハードウェア処理をかけていた)。なのでNECもたかを括っていたのだろう。たださすがにこのスペックはやりすぎた。このFシリーズは前述したが中古でもかなり流通数が少なかったのか、本当に発見することが難しかった。DシリーズやRシリーズは大量に売られていたのにFシリーズは本当になかったのだ。もちろんゼロではないのでたまには見かけていたが、その数は相当少なかった。

またこのFシリーズに限らないのだがこの時代のパソコンは例の不良コンデンサ問題を含めた機種が多く、このFシリーズも例外なく不良コンデンサ率が高い。この不良コンデンサは結果的にこの後もA-Mate時代まで少々続くのだが、この不良コンデンサはかなりたちが悪く、当時販売されたパソコンは相当数が汚染されている。X68000FM-TOWNSも例外ではなくそういった意味でも後期に渡って不遇であったと言えるだろう。

そして方向性を変更:9821シリーズへの移行

NECはこのFシリーズの発売による市場反応で思った以上にAT互換機の驚異を感じ取ったのか、このFシリーズを最後に9801シリーズを21世紀に向けた98シリーズとしてWindows対応パソコンを前提とした9821シリーズへと進化し始める。日本国内のシェア率90%とも言われていた98シリーズの維持のために企業としては当然の選択肢ではあるが、結果的に言えばそれは茨の道に向かうことになるのである。

この後、NECの98シリーズの戦略は

・9821シリーズは上位互換及び拡張グラフィック機能(VGA対応)・拡張FM音源(通称86音源)に対応したビジネス&ゲーム特化のMate&Multiシリーズ

・今までの9801シリーズの後継機種としてビジネスに特化したFellowシリーズ

の二通りになる。また9821シリーズに関して言えばいわゆるローエンドモデルはあるが基本的にHDD搭載モデルが中心とした展開となっていく。FellowシリーズもHDD搭載モデルが併売されているがどちらかといえば用途的にはまだFDDモデルのほうが主流であった。

そして92年後半~93年にかけて新生98シリーズとして怒涛の販売戦略をとってくる。ざっくり見ていくと。

・92年11月:初代9821(通称98Multi)

コンパクト筐体+VGA対応専用モニターに加え、拡張グラフィックと86音源に対応し、今後の9821の基本機能を搭載して発売。9821シリーズ唯一のi386SX(20Mhz)搭載モデル。

・93年1月

A-Mate:Ap・As・Ae

98シリーズ最高のDOSゲーム機と言われているA-Mateの発売。本流モデルを意識したのかAp・As・Aeと3モデル展開。CPUもすべてi486を搭載し、最上位のApは当時最速と言われたi486DX2(66Mhz)を搭載。ASはi486DX(33Mhz)、Aeはi486SX(25Mhz)と当時としては順当な性能のCPUを搭載。また86音源搭載も搭載し当時の98シリーズとしては全部入りと言ってもいい。なお末尾にWがついているモデルはWindows対応モデルであったがまだ市場はWindowsを必要としていなかったため、高速な9801シリーズとして使うユーザーが大多数であった。

Fellow:BA・BX

ビジネス特化モデルとしてのFellowも同月発売。型式はBA・BX。前モデルのFS・FXの約半年強で次期モデルを発売してる上に上位モデルのBAはi486DX2(40Mhz)と大幅向上。下位モデルのBXですらi486SX(20Mhz)と前モデルのFA以上の性能。だがA-Mateの強烈なスペックにどうしても見劣りをするのは否めない。なおこれ以降FellowにはFM音源は基本採用されていない。

・93年5月

Multi:Ce

初代98Multiのコンパクト筐体の流れに乗りつつ先に発売されるマルチメディア系パソコンでもあったCanbeの礎ともなった98Multi(9821Ce)を発売。初代からCPUもi486SX(25Mhz)と強化された。86音源を搭載しているので、実はA-MateのAeとCPUだけで言えば同等。そう考えれば定価ではモニター付きでAeとは2万円の差しかなく、DOSゲームをするには最適な選択肢でもあった。

・93年7月・8月

A-Mate:Af

Pentium60Mhz、86音源、グラフィックアクセラレーター、HDDは510MBと、Windows3.1完全対応の当時最強の98シリーズでもあった。お値段も高く60万円。Pentiumを採用した初めての98シリーズになるんじゃないかな?(しかもバグ付だった気がする…)スペックも価格も驚きの一品。

・93年11月

B-Mate:Bf・Bp・Bs・Be

Mateシリーズ唯一の失敗機とは言われてるが、今後のX-MateやMate-Xの礎となったB-Mateの発売。それぞれA-Mateの型式に依存しており、CPUもほぼ同等。唯一Bsのみi486DXではなくi486SXであった。なお、BfもPentium搭載で40万切りという恐ろしいスペックであるが、いかんせんこのB-Mateは当時のMateシリーズで唯一86音源を搭載してない。その上拡張グラフィック機能に難があり、本当に高速な9801シリーズでしかなかった。ただ全モデルにグラフィックアクセラレーターが搭載されており、Windowsを動かすには快適ではあった。だが、いかんせん当時のWindowsはまだ実用性に乏しく、まったくもって早すぎたテスト機だと言ってもいいだろう。

Fellow(2代目):BA2・BS2・BX2

BA2はi486DX2(66Mhz)にメモリ3.6MBが標準に。BS2はなぜかこのときしか無い不思議モデル。i486SX(33Mhz)にこちらもメモリ3.6MB。BX2は下位モデルでi486SX(25Mhz)のメモリは1.8MB。一年も立たないうちにマイナーチェンジされ、今までの98シリーズには無い展開の速さが見られる。むしろ初代Fellowを買った方々は結構お怒りだったと思うが…。。。

 

 

なんと約一年の間で9821は3シリーズ、9801は2回ほど発売している。無印9821を入れれば4シリーズになるが、無印に関して言えば市場反応を見るための初期導入テストモデルとも言えるだろうし、その後Multiシリーズとして展開したので単純に初号機と言ってもいいだろう。当時は98Multiと言われていなくて単に9821と言われていたと思う。そのせいか初代無印9821のみCPUがi386SX(20Mhz)であり、当時の本命は高価格帯のA-Mateであったのは明らかである。実質の9821のスタートはすべてi486以上のCPUを搭載されたA-Mateだったと言えるだろう。

思えばこの時期は試行錯誤の時期だったのだろう。それぞれの機種にある程度の方向性や色をつけて違ったコンセプトで大きく3+1つに分けて販売を開始しており、初代9821はモニター付きモデルということもあり、スペックというよりは9821シリーズのお披露目式に近かったのだろう。これまで98シリーズはモニターレスモデルしかなく、転換点という意味も込めてこういったモデルを発売してきたのだろう。実際この初代モデルはその後Multi→Canbeと続くことになり、特にCanbeシリーズは当時のベストセラーと言える機種になるのである。

 

というわけで今回はここまで。次回は9821シリーズを中心に当時のゲームを中心に語っていくことにします。9821シリーズに移行後は中古ゲームも一番充実しており、ある意味98シリーズで一番ゲームが楽しめた時代でもありました。そのあたりも昔少し語りましたが、今回は機種の進化とともに語っていこうと思います。